Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


『Not guilty but…』(2)

『Not guilty but not innocent』(承前)

『……もしもし』
 いかにも寝起きの、不機嫌そうな声がする。
「おやすみのところ朝早くからすみません。とうとうやらかしてしまったみたいです」
『やらかした、って。……誰が、何を?』
 電話線の向こうの声がにわかに緊張する。大きく息を吸って、悪い方の想像を口にする。
「《あたし》が、過失致死を」
 息を呑む気配が伝わってくる。
『…で、そこはどこ?警察には知らせた?』
 リーフレットの下の方に印刷されている、ここの所在地を告げ、警察にはここのフロントから連絡が行ってるはずだと伝える。
『解った。すぐ行く。遅くとも1時間以内には着くと思う』
「あ、待って。二つだけお願い。ケータイが行方不明なんです。ログを調べておいてもらえると助かります。あと、来る時に着替えを持参してくれると嬉しい」
『……着替え?』
「スウェットか何かでいいから。《あたし》の着てきたのは、ちょっと着用できなくて」
『……なるほど。解った。着くのが1時間越すかもしれないけど、大丈夫か?』
「……たぶん。でも、警察の扱い次第、かな」
『そうだな。とにかく、気をしっかり持って、はっきりしない事は『わからない』で押し通せ。じゃあ、切るから』
 切られる前に一言付け加える。ちょっと口調を変えて。
「…ごめんね。手間をかけさせて」
 通話が切られるまで少し間があったが、結局、返答はなかった。
 ハンドセットを戻すと、急に膝から力が抜ける。思ったよりも緊張していたらしい。
 だが、呆けてはいられない。誰かが入ってくる前に、一応見られる格好にはしておかなくては。
 座りこんだまま手を伸ばして、ベッドの横に蟠(わだかま)っている服を掴む。
 男を誘惑する以外にどんな用途があるのか、と訊き返したくなるような薄くて頼りない服。だが、自分のクローゼットの中には見覚えがない。どこで手に入れたのか、と首を傾げる。
 下着もまた、裸とどっこいどっこいな際どいもので、「何も着ないよりはまし」と呟きながら装着する。ありがたいことに、頭は半分パニックになっていても、手の方が着方を覚えている。背中のフックを留めるのに多少手間取ったが、なんとか着終えた。ストッキングは転んだのか、どこかに引っ掛けたのか、それともそういうプレイでもしたのか、両脚とも足首まで裂けていたので、ゴミ箱に突っ込む。アクセサリ類は急いで身につける必要はないだろう。今更だが、『現場保存』とかいう原則があるそうだし。
 肩ひもが片方ちぎれたキャミソールドレスとひざ上丈のバスローブ。どっちがより刺激が少ないだろうかと思案していると、サイドテーブルの電話が鳴った。
 フロントから警察と救急が到着したとの知らせだ。ロックを外すので、中から開けてください、とのこと。一応、客の何かには配慮している、という事か。「何か」が尊厳だか人権だか、それとも面目だかは知らないが。
 ドアがノックされた。バスローブの前をきちんと閉じて、はだけないようにしっかり掴みながらドアを開ける。
 グレイの制服の救急隊員が入ってきて「具合の悪い方はどちらですか?」と訊ねてくる。ベッドのある方向を指さすと、そちらの方へ向かう。
 そのうちの一人がやってきて、話を聞かせてくれ、というので、「ここで?」と不安げな表情を浮かべてベッドのある方を窺うと、フロントに掛け合って同じフロアの別の部屋を開けさせてくれた。
 患者の異常に気付いたのはいつで、その時はどんな状態だったか、気付いた後どうしたか、というような事を訊かれる。
「え…と…目が覚めたら、隣に人がいるのに気付いて。で、顔を見たら、なんか顔色が悪くて。胸も動いてないし。あっ、死んでる、って思ったら急に吐き気がして、で、トイレに駆け込んで。そのあとどうしようかと思って、しばらく考えてから、フロントに電話を。時間は…えーと……目が覚めて、ここはどこだろうって見回して、時計らしきものが目に入ったのが六時…二十…二・三分?」
 自分でしゃべっていて、なんて頭が悪そうなんだ、と思う。
「処置…心臓マッサージとか?…はしてません。やり方がよく解らないので。…触るのもなんか怖くて」
 本当のところは黙って逃げる算段をしていたからなのだが。
「だって、知らない人だから。…名前もたぶん、聞いてません」
 ボールペンを走らせていた手が一瞬止まり、こちらに目を向ける。頭の上から足元まで一瞥(べつ)すると、すぐ目を戻す。
 書類を書き上げた消防署員が「ご協力ありがとうございます」とぼそりと言って引き揚げる。
 入れ替わりに入ってきたグレイと紺のスーツの二人組の紺の方が、警察の名刺を差し出す。同じくらいの年頃に見えるが、こちらの方が階級が上、なのだろうか?少なくとも『班長』というからには立場は上なのだろう。

#日記広場:自作小説

アバター
2010/11/28 22:48
…う~ん、この時点ではまだ事件の先がどうなっていくのか全然分かりません~。
てか、当たり前だけど。 ここで先が見えちゃったら中編書く意味がない。www
ホントに上手いですねぇ、もう文章に関しては素人とは思えないんですけど。
…実は覆面プロだったりして。www

主人公が自分の事を 《あたし》 と言ってるところが気になります~。
きっとこれが伏線ってやつですね! (^m^*)ムフ♪
イヤ~、先がすっごい気になります♪
アバター
2010/11/05 23:09
う~ん
想像するに普段は冷静沈着でヒニクだけれど信頼はされている。
でも自分の想定外の事には直ぐに対応は出来ない?
後で、何でこんなこと言ってしまったんだろうと後悔するタイプ。

実はまぶこさんそのものだったりしてw

でも、本当に上手ですね♪もしかして本職だったりして。
アバター
2010/11/05 10:36
こんにちは、まぶこさん何時も小説書いているのですか?この文の前と後は書くのですか?



カテゴリ

>>カテゴリ一覧を開く

月別アーカイブ

2023

2022

2021

2020

2019

2018

2017

2016

2015

2014

2013

2012

2011

2010

2009

2008


Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.