恋は舞い降りる天使の羽のようにー初夏ー(16)
- カテゴリ:自作小説
- 2010/09/06 12:02:35
母の心配をよそに、杏樹は龍太郎と鈴羽に帰るのが楽しみだった。
出勤する母と一緒に、コンビニまで荷物を持っていった。
母が持たせてくれた土産と、自分の荷物を宅急便で送ることにしたのだ。
出勤する母を見送り、杏樹はマンションに戻った。
玄関ホールを抜けエレベーターの前に来ると、ちょうど着いたエレベーターの扉が開いた。
中から出てくる人と、鉢合わせになった。
「あ!お兄ちゃん?」
エレベーターから降りてきたのは、兄の亨だった。
「杏樹・・・!」
「どうしたの?」
亨は、少しホッとしたような顔で杏樹を見た。
(もう、帰ったかと思った・・・。よかった・・・。)
ふたたび、エレベーターに乗り込んだ2人は、黙り込んだ。
家に戻ると、杏樹は亨にコーヒーを淹れた。
「わたし、今日の午後、鈴羽に戻るの・・・。」
亨の前にコーヒーの入ったマグカップを置きながら、杏樹は言った。
「戻って来たんじゃないんだな・・・。」
「うん・・・。それでね、あっちで通信制の高校に行くことにしたの。」
杏樹の淹れたコーヒーを飲みながら、亨はうなずいた。
「そうか・・・。」
言いたいことが沢山あったが、亨は黙って杏樹の話を聞いていた。
杏樹が鈴羽に行ってしまってから、心の中に大きな穴が開いてしまったような気がしていたのだ
「お兄ちゃん?」
「あ?あぁ・・・そうだ。夏休みにそっちにいくかもしれない・・・。」
「?」
「ゼミのセミナーがあるんだ・・・。」
杏樹は、兄の言葉に驚いた。
(お兄ちゃんが鈴羽に来る??)
「ん?いけないのか?」
「そういうわけじゃないんだけど・・珍しいなと思って。お兄ちゃんは、源さんのことあまり好きじゃないでしょ?」
亨は苦笑いをしながら、
「別に、源さんが嫌いなわけじゃない。苦手なだけだ・・・。それに、大学のセミナー用の施設もあるからね。」
「ふ~ん・・・。家に来るんじゃないんだ・・・。」
杏樹は少しほっとした。
亨は、そんな杏樹の様子を見て、話題を変えるように尋ねた。
「何時のバスで帰るんだ?新宿まで送ってこうか?昼飯おごるよ。」
杏樹は、困惑した。
(龍ちゃんと帰るからなぁ・・・。)
「えぇっと・・・ね。バスで帰らないの・・・。こっちに滝さんが来るから、ついでに乗せてってもらおうと思って。」
「滝?源さんとこの居候か?何でアイツがくるんだ?」
龍太郎のことを聞いた亨はとたんに機嫌が悪くなった。
一緒に住んでいるのも気に入らないのに、こっちまで迎えに来るというのがさらに、気に入らなかった。
「違うの。わざわざ来るんじゃなくて・・・。こっちに用事があって・・・。」
「ふん。勝手にすればいい!」
そう言うと、飲みかけのコーヒーの入ったマグカップをテーブルに叩きつけるように置いた。
そうしてテーブルから立ち上がると、リビングの扉を力いっぱい閉めて出て行った。
(しまった・・・。また怒らせちゃった・・・。)
杏樹は憂鬱になった。兄の癇癪はなかなか収まりそうになかった。
(しかたないか・・・。まだ早いけど、もう行こうかな・・・。)
一緒にお昼ご飯を食べようと思っていたのだが、亨の分だけオムライスを作った。
<お兄ちゃんへ
鈴羽村に帰ります。
お昼ごはんにオムレツライスを作りました。
食べてくださいね。
杏樹>
オムライスの横に、こうメッセージを添えた。
帰り支度をして、兄の部屋の前に来た。ノックをしたが返事がなかった。
「おにいちゃん?ご飯作ってあるから、食べてね。私もう行くね。」
それだけ言うと、杏樹は玄関に向かった。亨が部屋から出てくる気配はなかった。
玄関がしまる音がして、杏樹が出てゆくと、亨は自分の部屋から出てきた。
あの場にいたら、杏樹をもっと責めてしまいそうだったから、自分の部屋にこもったのだ。
リビングにいくと、テーブルの上にオムライスがのっていた。
(杏樹・・・・・・・・・・・。)
亨は、杏樹の作ったオムライスを頬張ると、何故だか鼻の奥がツンとした。
あわてて飲み込むと、少しだけオムライスは塩辛かった。
杏樹は、バス停で駅までのバスに乗り込んだ。
バスはさほど混んではいなかった。杏樹は、なるべく楽しいことを考えるようにした。
(そう・・。龍ちゃんが迎えにくるんだ。)
少し気分が良くなったころバスは駅に着いた。
JRに乗り換えて、世田谷にある美術館へと急いだ。
またまた続きが楽しみです(^^ゞふふふ
お兄ちゃんたら~シスコンなのねえ・・・w
私兄にオムライスとか作ったことないし~(。→‿←。)ぷぷぷっ 可愛い妹じゃないからだけどね~w