Nicotto Town


木漏れ日の下


狼男爵とジプシー道化師(2) (短編小説)

 朝の村に響くのは、神の声の様に透き通り、凛とした教会の鐘の音。目を覚ます村は声を上げ。村人たちの心は鐘の音で弾む。色んな音や雰囲気が響きあい、実に美しい時間。小鳥の囀りと共に鍛冶屋のドアを開き、青年は大きな荷物を担ぎ、歩み出た。その背中に感じる見送る者の悲しき視線を振り払い。カジモドは澄んだ青い瞳を輝かせて、静かに朝の空気を胸一杯に吸い込み。父親とのかけがえの無い思い出に、そっと扉を閉じた。
――血の繋がりは無くても。貴方は大事な、俺の父さんでした。父と呼べなくて……ごめんなさい。
 胸に感じる苦みを秘め。背中を向けて歩き出す。足に纏わりつく後悔の念はない。足取りは軽く、しっかりと地面を踏みしめて。青年の背中を、まるで神々が押す様に暖かい太陽が輝いていた。

 青年はまず、村のすぐ近くにある街に行き着いた。村出身の道化師達は皆、この街で名を上げて、大きな都市を目指し旅に出る。普通の連中が、普通に歩む道則を、青年も歩こうとしたのだ。
 街の入り口には大きな門があり、堂々とした白い門には金色の鹿が、美しい女性と踊る彫刻が施され。街のシンボルとなっていた。踊る鹿と女性の意味は【誰しもに美しき感性と、美しき自由を】とされ、市長がそれを発表した際には、住人たちは胸に微かな温かみを感じた。優しさと愛情を尊重した街並みは美しく。煉瓦造りの家々はとても素朴ながら、冷たさを感じない見た目は、とても癒される気がした。街の中央には噴水があり、その周りを取り囲む様に市場が出て、一角には舞台などが行われる華やかな大舞台がある。カジモドはまず、そこに立つ事を目標とした。あの場所に立てば、認めてもらえると信じて。
――その後。カジモドがその舞台に立つ時は、意外な程早く訪れる。それは、街に着いて三日後の、心地の良い夕方の風を感じながら、働かせてもらえる場所を探している最中の事だった。

「君だね、カジモドという青年は」
 突然声を掛けてきたのは、でっぷりと出た腹が特徴的な、おとぎ話に出てきそうな程可愛らしい風貌の、背の低い男だった。歳は50代くらい。頭に被ったシルクハットを取って手に
持ち。礼儀正しい姿勢になると。突然の無礼を申し訳ないと言う様に苦笑して見せた。恐らく、名前の意味を考えて、申し訳ないと思ったのだろう。

「はい。俺がカジモドです。あの……何か」
「私は、この街の市長のクリフト・レーヌブルグ・ロッテンと申します。この近所の宿に泊まっている若い道化師がいると聞きまして。訪問させていただきました」
  青年は目を見開いて驚いた。まさか、街について三日で市長に会えるとは思ってもいなかった。ましてや、道化師だと聞いて訪ねてくるなど。嬉しさと申し訳なさを胸一杯に感じつつ、ふと、疑問ができた。何故、態々自身を訪ねて来たのか。まさかと思い、不安になるのを抑えながら。相手の目を見据えた。
「それで、俺になんの御用ですか?」
 市長は目を見据え返して。言った。
「突然で申し訳ないのですが、明日の祭りで、舞台に立ち道化として芸を見せてくませんか。明日は年に一度の自由祭。全ての市民が仕事を休み、楽しむ一日なのです。そこで、貴方には舞台に立ち、市民達を笑わせていただきたいのです」
 市長の言葉に、言葉を失った。
「え。ま、まさか、この俺が舞台に? 本当にですか?」
 ようやく出た言葉は乾きで掠れ。たどたどしかった。それを見て、笑う市長の顔は明るく、大きく頷く仕草は、本当だと言う事を証明していた。
「やった! これで俺も人に見てもらえる!」
 嬉しさのあまり声を張り上げ。癖になっている道化師ならではの軽い小躍りをしながら、喜びを全身で表現した。呆れ果てた市長が、苦笑して止めに入るまではその行動は止められず。完全に舞い上がっていた自身の心は制御できなかった。これで見てもらえると思い、喜んでもらえると思うと、嘘の様に過去の疎外感は消えていく。カジモドは、人生で初めて、人としての喜びを感じていた。
――しかし。喜びを与えるのも人間なら。深い絶望を与えるのも、また人間なのだ。

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2010/08/17 23:05
凄い文字数だ~~~~(´ノ☐`)ノ

目がちかちかするwww
だが、内容は凄くカッコいいぞ!!!
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2010/08/17 11:27
明るい町の様子も、カジモドの希望に満ちた心も、良く読み取れました。
つづきを楽しみにしています^^
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2010/08/16 23:56
ありがたやありがた;;そう言ってもらえると安心です;;
いやぁ^^;書いてると文字数が増えるんです^^;
>灰猫さん

頑張るよ!^^
>ゆめか
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2010/08/16 23:52
私はサクサク読めてますよー。
読みにくさは特に感じないですね。
これだけ文字数がある作品を連続でアップできるのが羨ましいです。
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2010/08/16 23:30
んー。
うちはそんな小説読まないからなんともいえないなぁ。

がんばれ!



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