美しい日々を我らに (短編小説)
- カテゴリ:自作小説
- 2010/08/11 22:24:31
【全てを話しなさい。そうすれば、貴方と同じ道を歩く被害者が減るから】
――すんなりと、口に出して言える者は、一体幾らいるのだろ。
あれは唯の好奇心だった。
初めのうちはこれで最後だという理性があった。だが、半月が過ぎた頃から回数は急激に増え。少しづつ、自身の理性が崩れていく。
――薬……もっと薬を……。
とうとう。自身は罪に手を出した。
目の前に横たえる冷たい男の死体が、見開いたままの瞳で、こちらを見据えている。周りで、焦るあまり狂った様に笑う数人の若者が、財布を取り出してまるでピエロの様に不気味におどけていた。思えばこの時、諦めていれば良かったのだ。普通に生活などできはしない、自身はもう、大罪人なのだからと人生を悔いていれば良かった。だが、自身はそれができずに。更なる地獄を、見た。
【薬! 薬をよこせ!】
金が底をついた。
【離せ! ここから出せ!】
身体を縛られている。手足をベットに括り付けられている。
友達に止められるまで。数ヶ月間、自身は罪に身を焦がした。それがこの有様だ。頭が割れるように痛い。背筋が凍るように寒い。目の前に迫る死神の黒い手が、自身の目玉を抉ろうとして。幾重にも重なる黒い空が、まるで墨が垂れてくるように見えた。
友達の叫び声が耳に届かない。聞こえるのは自身の身体の悲鳴だけ。背中を叩く手が、頬を殴る拳が、耳を劈く悲鳴が。生温い自身の涙が。全てが、苦しかった。痛かった。自身は何をしているんだ。何故、こんな目に合わないといけない。
【薬をよこせ!!】
「駄目だ! 耐えろ!頼むから元に戻ってくれよ!」
【うるせぇ! 薬……薬をよこせ! 殺すぞ!】
「いい加減にしろよ! お前……何でそんなになっちまったんだ!】
殴られた頬が痛んだ。
――何故……こんな目に。なぁ……頼むから薬くれよ……。寒いんだよ……痛いんだよ。……頼むから、楽にしてくれよ……。
【頼むから……薬……くれよ……】
「修。お前の夢はさ、学校の先生だったんだろ? なのに、お前、こんな事になって。】
【うう……】
「聞いたよ。お前、金欲しさに30代サラリーマンを殺しちまったって……」
【…ひひひ……ひははははは!……】
「もう……お前戻れないぜ。殺人罪と薬じゃあ……お前、どうするんだよ」
話し掛けてくる言葉が背中を殴り、そして追い詰める。もう人間には戻れないのだと思うと、心が軋んだ。
一か月経てば、普通に理性も戻り。症状も治まったが、自身が歩く今後が恐ろしくて。自殺も何度も考えた。唯の好奇心が招いた最悪の地獄。地獄に引きづり込んだ悪魔は、今でものうのうと生きていると言うのに。たった一回の薬で。自身は全てを失った。
法廷で証言させられるバイヤーの名前を、自身の被害を。口に出すのが嫌で仕方がなかった。たった一回の好奇心が。人生を狂わせたのだ。受け入れるなど、向き合うなど、誰ができる。背を向けたかった。逃げだしたかった。法廷の真ん中で口にする言葉は、目の前に座る人間達に吸い取られ。自身は、ふと力無い目で助けを様に目の前の人間を見た。
しかし、目の前にあるのは女神の微笑みではない。
――あるのは、鬼の様な、厳しい現実という目。
貴方は、言えるか?
――【私は、悪魔に心売った、麻薬中毒者です】。すんなり罪を認められますか?
――【麻薬なんて止めろよ……恐いんだから】。何が恐いか、説明できますか?
――【薬……薬をよこせ!】。暴れ、ベットに括りつけていないと手に負えない相手に、真っ向から向きあえますか?
これが現実。目の前にいる人間を見てみると良い。もしかしたら、その人物が、既に地獄を見ている可能性は十分、ある。
救えるのは、人の目だ。自身では、もう戻れない。それが、麻薬の地獄。
現実世界にある。本当の地獄。
冒頭「あれは唯の好奇心だった。」ということは、自分の好奇心が悪魔なのでは?
ん?
修って誰?
中ほどのやり取りをしているこいつはだれだ?
自分と友達とバイヤーと唯と修の関係性が不鮮明なのでその辺をより明確化するとよりよいかと思います。
人称の管理はなかなか難しいですw
乾燥しちゃった。
いや。読書感想文の本よんでたはずなのにこっちのほうに集中しちゃったw