砂漠の蠍(短編ファンタジー)
- カテゴリ:自作小説
- 2010/07/10 00:28:42
―砂漠の蠍
砂漠の端にある古びた街には、歴代の優れた職人たちが軒をつなれていた。寂れた場所だと言って歳若い連中は決して近づかないその街で、嘗て砂漠の蠍と呼ばれた男は、群を抜いて優れた職人として、死ぬ間際に最高の傑作を残して、あの世に逝った。砂漠の蠍と呼ばれ、優れた職人だと持て囃された男は、最高の靴職人だったという。
※50年前
「お前、行く処もないのか」
「……」
「歳は? 家族は、いないのか」
「……」
「おい。なんとか言えよ」
「……」
必死に問いかける老人は呆れ果てた。話し掛けられている男は一向に声を発さず、かれこれ三日、ここにいるのだ。寂れた街だとして誰も寄り付かないグランマレーのちっぽけな靴屋の軒先で傷だらけで倒れ、住人たちが知らんぷりをして歩いていく中、この靴屋の主人だけが男をほっとけず、家に入れた。いや、正しくは商売の邪魔になる為に渋々、男を入れたと言った方が正しいかもしれない。
初めの一日は手当てして寝て過ごし。二日目に意識が戻って飯を食べ、そして三日目、どんなに質問しても、答えない。店の主人は生きてきて66年間、こんな変わり者に会ったのは初めてだと言って苦笑し、呆れたように声を発さない男の肩を軽く叩いて、椅子から腰を上げると古びた台所に向かい、最近導入された湯沸かし器でコーヒーを入れ始めた。
「お前、砂漠の向こうの人間か? そうなら、この街には何もないぞ。何で来た?」
「……」
「一人か……。まぁ、ここの連中は皆そうだから、別に不思議じゃないがな。ふらふらこの街に行き着いて住み着いた奴も多いし、なんか罪を犯して隠れて住んでる奴も多い。ここは時代の流れがこないからな。どれだけ置いてけぼりか、聞きたいか?」
「……」
主人は反応しない男の顔を見て薄く笑うと、問わず語りに話し出した。
「ここはな、通称、枯れ木の街と呼ばれる場所だ。知ってて来たなら、別に良いが。砂漠の向こうや海の向こうでは当たり前の便利な物が一つもない。電気なんてねぇから今でも蝋燭だしな」
水は近くのオアシスからポンプで引き、進んでいく人間の叡智は時代に取り残された古びたラジオで知る。まるで魔法の様にすぐに水が出て、声だけではなく姿まで見る事のできる箱まで作られた時代に、この街の人間達は、その全てを持っていない。
しかし、この街に住む者達はそれを不便だとは決して言わない。魔法の様に便利な生活をする事を、この街に住む住人達は望まないからだ。敢えて世界から孤立した街に住み、世界から距離を置いて、自身が不完全な人間であると確かめながら生きる。この街の人間は、もともと生真面目な連中が自ら道を踏み外して行きつく最後の場所なのだ。だから、時代に乗らずに置いていかれる事を敢えて望む。グランマレーの住人達は、本当の孤独というものを、知っているのだ。時代に置いていかれる孤独、人と関わらない孤独、そして、追われる孤独。
「……なんで、外の世界に出ない」
老人の話しをちゃんと聞いていたのか、無反応だった男が突如口を開いた。ボサボサの茶髪頭に伸びきった髭、口の中が切れているのか話し難そうに小さくそう声を出すと、男は生気を殆ど感じられない目で老人の目を見据え。それ以上は、何も言わなかった。
「ようやく声を出したな」
老人は笑い、コーヒーを注ぐ為に台所に戻るとカップを二つ持って戻ってきた。
「その質問に答える前に、わしの質問に答えろ。お前の名は」
男は渋々答える
「……グランデ」
「グランデ? どこから来た」
「……コメンラル」
「コメンラル。ん……コメンラルって、お前」
老人は目を見開き、耳を疑った。
なんせ、男の口にした場所は、やく300年前に滅んでいたからだ。知ってる者しか知らないその名前を男はあっさり口にして、老人の反応を不思議そうに見据えている。自分は変な事を言ってるかと、問いかける様に。
こういう文章って、荘厳な雰囲気醸し出そうと
するためか、どこか、文章が人をはねつけるのを感じる
んですが、それがない。ぐいぐい人を
世界観に引っ張り込もうとする感覚にはまりました。
すごいです。
ストーリーも人をひきつける力がすごい。面白い展開を
期待しちゃうです。
正直な感想「参りました」です
フアンタジー好きなので
続きが出るのを、楽しみにしていますよ~^^