気狂いピエロ【18】
- カテゴリ:自作小説
- 2010/06/16 23:06:01
ベルカの口から飛び出した、「これを逃したら会えない」という言葉。言ってしまったという後悔の念が心を支配し、思わず眉間に皺が寄る。目の前で不審な目をしてこちらを見据え質問してくる青年の視線が痛い。
数秒の間をおいて。覚悟を決めた。ジェシーにすら言わなかった秘密を、話す機会は今しかないのだ。そして、話さなければ、外出を認められないのだ。そう、自身に言いきかせるしかなかった。
「コール……私には、娘がいるの」
※
六年前。ベルカが20歳の時、その娘は生まれた。父親は、いない。誰にも言えず、一人で抱えて生きてきた。捜査官ベルカ・ラグライアンの唯一の忌まわしき過去。それは、強姦。
捜査官になる為に必死で勉学に励んでいたベルカに、一人の男が声を掛けたのは、蒸し暑い夏の夜だった。その頃のベルカは今の様な男らしい髪型もしておらず、化粧もしていた。本当に女性らしい女性だったのだ。しかし、その美しい容姿が、彼女を地獄へと引きづり込もうとは。
強姦をした犯人は既に逮捕され、塀の中にいる。たった一回のその事件で、ベルカは心に深い傷を負い、身体に一つの命を宿した。妊娠が判明してから、両親にすぐに卸せと言われ、一度はそう決めた。だが、できなかった。
――この子に、罪はない。
そう、思ったから。
「……生んだんですね。犯人の子供でも、その子に罪はないから」
目の前に座り、顔の前で両手を絡めて小さく呟く青年の顔が。申し訳なさそうに歪んでいる。後悔しているのだ。聞いてしまったことを。
「良いの。こうやって話せる様になったんだと、改めて実感できた。それに、話せて良かった。今後、私は娘に会えなくなるから。覚悟ができたわ」
表情を見てそう言う。そうするしかない。じゃないと、この関係が壊れてしまうのではないかと恐怖があったから。
「会えなくなるって……どうして会えなくなるんですか? ベルカさんの娘さんは、今どこに。今まで、一切知らなかったうえに見た事もないですが」
「娘は、養子に出てるのよ」
「養子。って、どうして一緒に暮さないんですか」
「あの時、私には余裕がなかった。だから、養子に出したの。私といるより、その方があの子にとって幸せだから」
「……」
青年は言葉に詰まる。今まで気丈に振舞ってきた女性のまさかの過去を聞いて、瞬時に言葉がでるはずもない。それを見て、話しているとうの本人はというと。苦笑していた。何でもいいから表情を貼り付けていないと、崩れてしまいそうだったから。
娘の話しをするといつもそうだ。心が悲鳴をあげて崩れそうになる。それだけ、今のベルカにとって娘はかけがえのない愛おしい存在でありながら、大きな悲しみの種でもあった。
「でもどうして、会えなくなるんですか。今まで会えてたんですよね?」
「そろそろ他人にならないといけないの。今は、向こうが母親と父親だから。私は、あの子の人生にもう入れない」
頬が引き攣る。言葉が上手く紡げない。
「どうして。その子の母親は、ベルカさん、貴方一人なんですよ」
「知ったような事言わないで」
「あ……すみません」
また、重い沈黙。どちらか片方が身体を動かすたび、服の擦れる音だけが耳に入り。その静寂を引き立せる。そして、先にその空気に終止符を打ったのは。
「分かりました。明日、俺も同行します。それなら許可できますから、よろしいですか?」
コールだった。
ベルカの抱えている辛い過去も絡んで、まるで映画見てるようです。
グイグイ引き込まれます。続きに期待!
そしてなぜに敬語?!
だから美容師志望でしょ??
なんでこんな小説うまいの??