クリムゾン6
- カテゴリ:自作小説
- 2010/05/11 23:02:00
リーベが何気なく取った本に目を通していると、その時は来た。ゆっくりと近づいてくるテンポの良い足音を聞きながら、親指をスライドさせてページをめくり、意識しない様に身体を強張らせて、近づいてくる青年が早く会計を済ませて出て行くのを望んだ。しかし、その望みが叶う事は無かった。青年は会計をしながらロコじいと一言二言会話をした後、その横で本を流すように読んでいるリーべに向き直ると、突然。
「あの、リーベ・バイル博士ですよね」
確信を持っている言い方だった。間違いないという様な、確信に満ち溢れた声が、自身の耳に届き、青年の背後でほくそ笑んでいるロコじいの顔が想像できた時、自身のなんとも言えない感情は、溢れだした。どうせ、自身の腕が無いことが裏付けているのだろ、それが確信させているんだろ。人と違うから蔑まれる、人と違うから、孤立する事を望む。リーベの中に逆恨みの様な怒りがこみ上げてきて、そして、弾けた。
「確かに、俺はリーベ・バイルだ。……だから何だ」
露骨に粗くなる態度を気にする事無く、座っている自身よりも上にある青年の目を睨む様に見据えて答えた。これだけやられれば、普通の人間は、呆れて逃げて行く。今までがそうだったのだ。そして今回も、逃げて行くと思っていた。
「俺は逃げませんよ。そんな態度とられても」
耳を、疑った。
「俺は嫌なんだよ」
「知ってます。貴方が人を避けている事も、変り者である事も」
「な……」
青年は、睨みつけるリーベの目を、真っ直ぐ見据えて、静かに言った。紡がれる言葉が胸に刺さり、痛みと、それと同時に疑問が浮かぶ。何故、初対面で話しをする人間が自身の事を知っているのか。自身は今まで、メディアに姿を出したことも無く、知られているのは名前のみ、しかし、青年は自身の名前を言い当て、性格も知っている。リーベは不審がりながら、助けを求める様に、背後にいるロコじいに視線を滑らせた。すると、不敵な笑みが帰ってきた。――ロコじい……。
全てを悟る。犯人は、ロコじいだと。
「ロコじい。アンタだな、俺の事話したの……」
「ふん。お前も偶にはわし意外と話してみろ。人間は色々いるんだから」
「俺が苦手なの知ってるだろ」
「知ってて話した」
「……」
「あの」
青年がもめている二人の間に割って入り、二人の視線が自身に向くと、話しだした。全ての経緯を。
「俺からロコじいさんに聞いたんです。ここにリーベ博士が来ると聞いて、俺が問い詰めたんです。俺、博士の事を新聞で読んで、尊敬してました」

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- BENクー
- 2010/05/14 03:02
- ロコじいのキャラクターやセリフ、そしてリーベの感情表現といい、まだ小説の発端でありながらどんどん話の中に惹き込まれてしまいました・・・次回も是非読ませていただきます!
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