Nicotto Town


木漏れ日の下


□:空駆ける戦士に、敬礼!:□ (1-3)

※ 部屋を訪ねて来たラプターは、持ってきたカセットレコーダーから激しいロックを流しながら、実に興味深い話しをしてくれた。現在、第77戦術戦闘飛行隊アルバーク島分遣隊隊長を務めているハワード大尉の過去の話しだ。

 18年前、ハワード大尉にはアクーラに恋人が居た。しかも妊娠していたという。そして、その頃から大尉として任意を全うしていたハワード大尉に、アクーラ都市ミサイル攻撃命令が下ったのもこの頃だったらしい。
アクーラ都市には大尉の恋人が居る。想像はつくだろう。大尉がどうしたか。もちろん――命令に従い攻撃を実行した。

「それ以来、隊長は敵国さんの街やら民間人は殺さなくなったんだとさ」
「何故です」
「さぁな。詳しい話は俺も知らないんだ。明日隊長に直接聞けよ、多分話してくれないだろうけど」
「そのアクーラにいた恋人はどうなったんですか?」
「ミサイル攻撃で死んだって俺は聞いてるが。本当はどうなんだか」

「生きてるよ……」

突然、部屋の扉の方から小さく声が響いた。話しに集中していた私とラプターは、その声の主に一切気付かず、突然のその言葉に顔を見合わせ、その声の主の方へと視線を向けた。その声の主は、ブレイクだった。片手にコーヒーの入ったマグカップ持って、空いているもう片方の手でクッキーの入った袋を持ちながら扉を開けて立っている。その姿を見て、驚いている私達に、彼は、「何度もノックしたんだが」と、不服そうに口元を尖らせてそう口にした。頬には小さく切られた湿布が貼ってある。まだ痛むのだろうか。表情をなるべく変えない様にその顔は無表情だ。部屋に流れているロックのせいで、ノックの音が聞こえなかったのだろう。申し訳ない事をした。

「お前な、もっと大きくノックしろよ」
「した」
 ブレイクの登場によって、ラプターはすぐさまその新しい訪問者であるブレイクに噛みついた。完全に、ハワード大尉の過去の話しの腰が折れる。そして、その攻撃に全く動じず返すブレイク。私はそれを、只眺めているだけだ。すると、それに気づいた新しい訪問者の彼は、手に持っていたコーヒーのマグカップを差しだして、「差し入れです。エッジから」と、熱々のコーヒーを渡してくれた。
「ありがとう。彼女にお礼を言っといてもらえますか?」
「明日、また飛行訓練ですから。自分で言ってください。俺は明日、別の任務なので」
「別の任務……。戦いに?」
「……只の偵察です」

 彼は口を噤んだ。明日、彼は戦場に向かう。その時の表情が、聞かないでくれと、しっかりと告げていた。

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